はじめての夏祭り5 |
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「劇、どう?」 「無理だと思う」 「即答された」 ちはるの答えにカラカラと梓は笑った。 「ごめん、人前に出るって考えたらちょっと…苦手なんだよね」 「そうだよね〜」 梓の返事は軽く、どこまで本気で考えているのかちはるには分からなかった。「子供向けの簡単な劇」だと話していたし、さほど重要なことではないのかもしれない。一言二言、言葉を交わすと梓は友人と待ち合わせしているとホームの奥の方へ歩いて行った。梓の後ろ姿をぼんやりと見ながら、ちはるはヘビのことを考えていた。 ヘビ…トキ…少女が退治した蛇の昔話…。みかん…? 言葉を整理して並べてみる。ちはるの心の中に昔話が引っかかっていて、自分の家にいるヘビと関係があるような気がしていた。 「じゃあトキって…蛇をこっそり助けた人…。そのまま世話して、生き延びたヘビが、今私の部屋にいる…。なんで?昔話についてヘビに聞いてみようかな。いやいや!やっつけられた話を、聞けるわけない…。というかいつまでうちにいるんだろう、あのヘビ?」 今のちはるにとって唯一の手がかりは、昔話だった。昔話を知れば、ヘビについて何か分かるかもしれない。ちはるはついさきほどまでの梓とのやりとりを思い出し、小さくため息をついた。 数日後、また駅のホームでちはるは梓に会った。住んでいる場所は同じだけれど、アパートで2人が会うことは少なく、梓はいつもと同じように「劇のこと考えてくれた?」と声をかけた。 「やってみようかな」 「だよねーーえ!?」 梓は今までに見たこともないような驚いた顔をしている。 「ほんと!?なんで?」 「お話に少し興味があって…」 「良かったー!実は今年の主役の子がね〜できなくなっちゃって」 「え!?そうだったの。ならそう言ってよ!てか主役!!?」 「え、言ってなかったっけ〜〜」 「待ってやっぱり考え直す!」 「駄目だよ!バッチリおっけ〜って聞いちゃったから」 「そんな風に言ってないでしょ!」 梓の衝撃発言にちはるは狼狽するが、梓は涼しい顔をしている。そして少し間をおくと、今までの軽快な雰囲気から一変して真剣な面持ちになった。 「ちはるなら大丈夫」 初めて聞く梓の落ち着いた声はまるで風になびかない静かな水面のようなで、ちはるは思わず口をつぐんだ。そして梓から意外な言葉が飛びだしてきた。 「役所でじっと絵のこと見てたでしょ。興味があるのかなって」 「待って、あの時いたの?」 「うちのお姉ちゃん役所に勤めてんだよね。急に呼び出しくらってさ〜。お弁当忘れた〜って」 「じゃ、じゃああの時私に話しかけたのって――」 「待って、なんのこと?」 ちはるが何を話しているのか梓にはわからずうろたえていると、ちはるは突然考え込むようにして静かになった。 (声が、全然ちがう) 今までぼんやりとしていた少女の声が、まるで今さっき聞いたばかりのように、鮮明に蘇ってきた。 (なんだろうこの感覚。“近い”ような・・・) |
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