はじめての夏祭り7 |
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「あの…どちらさまですか?」 目の前にいる着物の少女は何も話さないでじっとしている。 ちはるのことが見えているかも怪しい。2人でしばらく向き合っていると、突然少女が泣き出した。 ちはるは咄嗟に 「トキさん泣かないで!」 と大きな声で目の前の少女に話しかけていた。ちはるは自然とその名前が自分の口から飛び出したことに驚いた。それは少し前にヘビが呼んでいた名前で、目の前の少女がその「トキさん」本人なんじゃないかと、そんな気がした。ちはるの声は少女に届いたようで、少女は泣き止んだ。そして 「ここに…私の、神様はいますか?」 とゆっくりとした口調で尋ねた。ちはるはつい「神様!?」と声を荒げそうになったが踏みとどまり、神妙な面持ちで 「神様かは分かりませんが…ヘビなら、います…」 と答えた。少女の顔は今まで泣いていたのが嘘のように明るくなり「ああ、よかった」と笑った。そしてそのままスーっと消えてしまった。 「トキだって!?」 なぞの生き物(であるかも怪しい)ヘビが“トキ”という名前に反応して近寄ってきた。ちはるはため息をついてぼんやりと考えた。あの劇の練習の時、鉛のように体が重くなった。もしかしたら少女を連れてきてしまったのかもしれない。今まで一度も幽霊やその類を見たことがなく、自分に霊感なんて一ミリもないはずだけれど…とちはるは思った。この町に来てからおかしいことばかりが起こる。 ちはるは思い切ってヘビに昔のことを聞いてみることにした。 「あなたって前はどのように生活してたの」 「トキがよく食べ物を持ってきてくれたからそれを食べてた」 「世話してもらってたんだ、トキさんに」 「優しい娘でな!魚・芋・きのこ…いろんなものをくれたな。時には珍しい、みかんってやつをくれたこともあった」 「み、みかん!」 「?なんだ驚いた顔をして」 「いや、この辺りでみかんって…」 「とんでもなくうまかった。2人でびっくりした」 「へ、へー」 ヘビの話からは深刻そうな光景は浮かばない。村人と戦ったことを忘れる…なんてことがあるのだろうか。トキさんに介抱された思い出が強く残っているのだとしたら、ヘビはトキさんのことをとても良く思っていたんだろうなとちはるは思った。 このヘビは昔話のヘビなんだろうか。もしそうだとしたら… 「人って食べたことある?」 ちはるは恐ろしいことを聞いてしまったとすぐに後悔したが、思った時にはもう遅かった。ヘビはその問いを聞くと一瞬固まり、わなわなと震えだした。 「食べるかーーー!!あんな…あんな不味いもの…!!騙されたんだ!!」 「騙された?誰に?」 「トキに!」 ちはるは驚いて声を失った。ヘビはトキの名前を口にすると両目からポロポロと涙のような黄色い液体をこぼした。 「美味しいものをくれると…言ったのに…!」 「ごめん…」 「なぁ、トキはどこに行ったんだ?」 ちはるは何も言葉を返すことができなかった。 |
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