はじめての夏祭り9 |
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「お祭りの日、連れて行くから見てね」 「おおー。最近ずっと練習していたゲキってのか!どんな話なんだ」 ちはるは笑いながら「内緒」と答えた。 とうとう本番の日がやってきた。 最初ちはるはヘビをスーツケースの中へ入れて運ぶことを考えた。窮屈かもしれないが大きいヘビを移動させるには大きいケースが必要だと考えたからだ。どれがいいかインターネットを眺めて考えていると横からヘビが顔を出した。 「そんなもの必要ない」 ヘビはちはるが普段から使っているリュックサックの中にするすると入り、あっという間にしっぽの先まで収まってしまった。 リュックは特別大きいサイズではないため、ちはるが 「どうなってるの!?」 と驚くとヘビは 「ヘビだからな!どこへでも入れるんだ」 と得意げなようすで答えた。 当日ちはるはヘビの入ったリュックを背負い会場に着くと、会場の隅の人気のない場所へ向かった。事前にステージが見えて目立たない場所を確認していたちはるはヘビをリュックから下ろすと 「ここで静かにしててね」 とヘビに念をおした。ヘビは大丈夫というふうに顔をふり 「ありがとう」 と笑った。そしてその場に溶けるように姿を消してしまった。さすがのちはるも驚くことにはなれたようで 「姿消せるんなら、もっと近くでもよかったな」 と少しだけ残念そうな笑みを浮かべた。そして自分の願いがヘビとトキに伝わるように頑張ろうと強く思った。 会場では小さい子供と親が集まって観覧席のシートの上に座り楽しそうに談話している。このステージでは劇以外にもダンスや歌、子供の発表会など様々なイベントが披露される。 本番が近づくとちはるは胸に手を当てて 「トキさん、見ていてくださいね」 とつぶやいた。 劇が始まる前に、梓が子供たちの前に立ち、大きな声で呼びかけた。 「今年はー!今までとちょっと違う話をやるよー!私もだいかつやくするからね!よーく見ててねー!」 その言葉に子供たちは喜んだ。毎年ステージに立っているとはいえ、子供たちの気持ちを一瞬で引きつける梓の姿に感心しながら、ちはるはぎゅっと手を握りしめた。 舞台は問題なく進み、あっという間に蛇と少女の対決シーンになった。 演技が終わると子供たちの笑い声と拍手が響いていた。ステージ上に出演者が集まり、手をつないでお辞儀をした。拍手の音を聞くとちはるの中にあった不安な気持ちが消えていくような気がした。そしてちはるが顔を上げると拍手の音がまるで光の粒のように空へ上がっていくのが見えた。光の粒を追っていくとそこには、金色に光るヘビとトキの姿があった。2人は顔を合わせて手をつないでいる。ゆっくりと空へ上がっていき、それはまるで踊っているかのように美しかった。その光景にちはるは涙が流れた。 「ちはる!」 隣にいた梓の声でハッと意識が観客へと戻った。 「お姉ちゃん、泣かないで」 一人の子供が声をかけると、ちはるはもう一度大きな声で「ありがとうございました」とお礼を言った。 ステージから降りたあと梓が 「ねぇ、今日すごく空の星が見える。きれいだね」 と空を見上げながら言った。 ちはるがもう一度空を見上げた時そこに2人の姿はなく、代わりに明るい空いっぱいに星のような光の粒がキラキラと輝いていた。その日からヘビとトキがちはるの前に姿を現わすことはなかった。 |
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